RSU(Restricted Stock Unit:譲渡制限株式ユニット)に係る課税関係

今回は、株式報酬のうちストックオプションと並んで広く導入されているRSUについて書いていきたいと思います。

RSUの概要

RSU(Restricted Stock Unit:譲渡制限株式ユニット)とは、株式報酬の一つで、役員・従業員に株式と等価の譲渡不能のUnitと呼ばれる権利が付与され、一定期間経過するごとにUnitの一部が確定し、株式を取得する制度です。

用語

RSUの制度を理解するために覚えておきたい用語として、次のものがあります。

RSU用語
  • 付与(Grant)・・・株式と等価の譲渡不能のUnit(権利)であるRSUを付与すること
  • 権利確定(Vest)・・・付与されたRSUの権利が確定し、株式を取得すること
  • 売却(Sell)・・・RSUによって取得した株式を売却すること

ストックオプションとの違い

RSUとストックオプションの違いを表にしますと、次のとおりです。

  RSU ストックオプション
権利行使 不要 必要
権利行使価額 なし あり
経済的利益 権利確定時の株価 権利行使時の株価-権利行使価額

RSUはストックオプションと異なり、権利行使価額という経済的負担がありませんので、権利行使が不要となっています。

また、 経済的利益についても、RSUの場合は「権利確定時の株価」であるのに対し、ストックオプションの場合は「権利行使時の株価-権利行使価額」と権利行使価額分少なくなっています。

ストックオプションの制度の概要につきましては、「ストックオプション(Stock Option)に係る課税関係」の記事をごらんください。

RSUの課税関係

RSUの課税関係について、事例を基にみていきたいと思います。

事例1


 A社に勤務するBは、A社からRSUを付与されました。RSUの付与・権利確定・株式売却状況は次のとおりです。

  • ×1年7月1日 RSUとして2,000Unit付与された。
  • ×2年7月1日(第1回)1,000Unitの権利が確定し、A社株式1,000株を取得した。A社株式の株価は@2,000円
  • ×3年7月1日(第2回)1,000Unitの権利が確定し、A社株式1,000株を取得した。A社株式の株価は@3,000円
  • ×4年10月31日 RSUによって取得した1,000株を売却した。A社株式の株価は@4,000円
  • RSUは他に譲渡することができず、権利確定前に退職した場合は失効する。

RSU付与時の課税関係

RSUを付与された時点では、経済的利益が発生していませんので、課税関係は生じません。

権利確定時の課税関係

RSUの権利が確定した場合は、次の算式の金額が経済的利益となり、給与所得の収入金額に加算することになります。 (所得税法施行令84)

【算式】
 権利確定時の株価×株数=経済的利益

第1回権利確定時

×2年7月1日に1,000Unitの権利が確定し、1,000株取得していますので次の金額が経済的利益となり、 ×2年分の給与所得の収入金額に加算することになります。

×2年7月1日の株価@2,000円×1,000株=2,000,000円

第2回権利確定時

×3年7月1日に1,000Unitの権利が確定し、1,000株取得していますので次の金額が経済的利益となり、×3年分の給与所得の収入金額に加算することになります。

×3年7月1日の株価@3,000円×1,000株=3,000,000円

株式売却時の課税関係

RSUにより取得した株式を売却した場合は、株式等に係る譲渡所得として課税されることになります。

そして、BはRSUにより取得した株式を×4年10月31日に売却していますので、×4年分の株式等に係る譲渡所得として確定申告することになります。

売却価額

次の算式の金額が売却価額となります。  

【売却価額の算式】
 売却時の株価@4,000円×売却株数1,000株=4,000,000円

取得費

RSUにより取得した株式を売却した場合、取得費は権利確定時の株価となります。(所令109)

また、同一銘柄の株式を複数回にわたって取得した場合の取得費は、総平均法に準ずる方法によつて算出した1単位当たりの金額により計算した金額とします。

そのため、次の算式の金額が取得費となります。  

【取得費の算式】

  • (2,000,000円(※1)+3,000,000円 (※2) )÷保有株数2,000株=1株当たりの取得費@2,500円
  • 1株当たりの取得費@2,500円×売却株数1,000株=取得費2,500,000円

 ※1 第1回権利確定時×2年7月1日の株価@2,000円×1,000株=2,000,000円
  2 第2回権利確定時×3年7月1日の株価@3,000円×1,000株=3,000,000円

株式売却損益

売却価額から取得費を差し引いた次の算式の金額が、株式売却損益となります。

【株式売却益の算式】
  売却価額4,000,000円-取得費2,500,000円=1,500,000円

RSUの課税関係
  1. 【権利付与時】
     課税関係なし
  2. 【権利確定時】
     権利確定時×株数 = 給与所得(※)
      ※ 給与所得の収入金額に加算
  3. 【株式売却時】
     売却価額-取得費(※) = 株式等に係る譲渡所得
      ※ 権利確定時の株価を基に算出

外国親会社から付与されたRSU

RSUは日本だけではなく外国でも導入されている制度ですので、外資系企業では外国親会社のRSUが付与される場合があります。

そこで次は、外国親会社から付与されたRSUの課税関係について事例を基にみていきたいと思います。

事例2

 

 米国法人C社の100%子会社である日本法人D社に勤務するEは、 C社からRSUを付与されました。RSUの付与・権利確定・株式売却状況は次のとおりです。なお、為替相場TTMの±1円をTTS・TTBとします。

  • ×1年7月1日 RSUとして2,000Unit付与された。
  • ×2年7月1日(第1回)1,000Unitの権利が確定し、C社株式1,000株を取得した。C社株式の株価は@$20、TTMは1$=100円
  • ×3年7月1日(第2回)1,000Unitの権利が確定し、C社株式1,000株を取得した。C社株式の株価は@$30、TTMは1$=105円
  • ×4年10月31日 RSUによって取得した1,000株を売却した。C社株式の株価は@$40、TTMは1$=110円
  • RSUは他に譲渡することができず、権利確定前に退職した場合は失効する。

権利付与時の課税関係

RSUを付与された時点では、経済的利益が発生していませんので、課税関係は生じません。

権利確定時の課税関係

RSUの権利が確定した場合は、権利確定時の株価が経済的利益となり、給与所得として課税されます。 (所得税法施行令84)

また、経済的利益が外貨で表示されている場合は、対顧客直物電信売相場(TTS)と対顧客直物電信買相場(TTB)の仲値TTMで円換算した金額を給与所得の収入金額とします。(所得税法基本通達57の3-2)

そのため、次の算式の金額が経済的利益となり、給与所得の収入金額に加算することになります。

【算式】
 権利確定時の株価×株数×権利確定日のTTM=経済的利益

第1回権利確定時

×2年7月1日に1,000Unitの権利が確定し、1,000株取得していますので次の金額が経済的利益となり、 ×2年分の給与所得の収入金額に加算することになります。

×2年7月1日の株価@$20×1,000株×TTM100円=2,000,000円

第2回権利確定時

×3年7月1日に1,000Unitの権利が確定し、1,000株取得していますので次の金額が経済的利益となり、×3年分の給与所得の収入金額に加算することになります。

×3年7月1日の株価 @$30×1,000株×TTM105円=3,150,000円

株式売却時の課税関係

RSUにより取得した株式を売却した場合は、株式等に係る譲渡所得として課税されることになります。

そして、DはRSUにより取得した株式を×4年10月31日に売却していますので、×4年分の株式等に係る譲渡所得として確定申告することになり

売却価額

外国株式など外貨で表示されている株式の売却価額の円換算は、対顧客直物電信相場(TTB)により円換算した金額となります。(措置法通達37の10・37の11共-6)

そのため、次の算式の金額が売却価額となります。  

【売却価額の算式】
 売却時の株価@$40×1,000株×売却日のTTB109円=4,360,000円

取得費

RSUにより取得した株式を売却した場合、取得費は権利確定時の株価となります。(所得税法施行令109)

外国株式など外貨で表示されている株式の取得費の円換算は、対顧客直物電信相場(TTS)により円換算した金額となります。(措置法通達37の10・37の11共-6)

また、同一銘柄の株式を複数回にわたって取得した場合の取得費は、総平均法に準ずる方法によつて算出した1単位当たりの金額により計算した金額とします。

そのため、次の算式の金額が取得費となります。  

【取得費の算式】

( 2,020,000円 (※1)+ 3,180,000円 (※2) )÷保有株数2,000株=1株当たりの取得費@2,600円

1株当たりの取得費@2,600円×売却株数1,000株=取得費2,600,000円

 ※1 第1回権利確定時×2年7月1日の株価@$20×1,000株×TTS101円=2,020,000円

  2 第2回権利確定時×3年7月1日の株価@$30×1,000株×TTS106円 =3,180,000円

株式売却損益

売却価額から取得費を差し引いた次の算式の金額が、株式売却損益となります。

【株式売却益の算式】
  売却価額4,360,000円-取得費2,600,000円=1,760,000円

外国親会社のRSUの課税関係
  1. 【権利付与時】
     課税関係なし
  2. 【権利確定時】
       権利確定時の株価×株数×権利確定日のTTM=給与所得(※)
     ※ 給与所得の収入金額に加算
  3. 【株式売却時】
     《売却価額》
      売却時の株価×株数×売却日のTTB=売却価額

     《取得費》
      権利確定時の株価×株数×権利行使日のTTS=取得費

     《株式売却益》
       売却価額 - 取得費 = 株式等の譲渡所得

 
外国親会社のストックオプションにつきましては、「外資系企業に勤務する会社員がストックオプションを行使・売却した場合の課税関係」をご覧ください
 

 

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