海外FXの税金③(H24.1.1~H28.9.30の課税関係【簡易版】)

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海外FXの税金について検討しましたところ、次のとおり国内FXと同様に申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(一律20%)に該当する期間があることが判明しました。

  1.  平成24年1月1日~平成28年9月30日
     ⇒ 申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(一律20%)
  2.  平成28年10月1日~
     ⇒ 総合課税の雑所得(累進税率)

この点、平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた海外FXについて、国税当局は総合課税の雑所得として取扱っています。

そこで、本ブログでは平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた海外FXが申告分離課税に該当する理由について記載していきたいと思います。

なお、条文の規定などを記載しました詳細版は、海外FXの税金②をご覧ください。

また、平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた海外FXついて総合課税の雑所得として申告し、平成28年分の税金を納めすぎた場合の申告是正期限は、令和4年3月15日です。

問題の所在

一般的に、FXなどのデリバティブ取引から生じた所得は、総合課税の雑所得または申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(以下「先物取引に係る雑所得等」といいます。)のいずれかに該当します。

そして、店頭FX取引などの店頭デリバティブ取引の課税関係について、次のとおり平成28年度税制改正が行われました。

平成28年度税制改正の内容

   

 平成28年10月1日以降に行われた店頭デリバティブ取引ついては、金融商品取引法に規定する第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者または登録金融機関を相手方として行うものに限り、先物取引に係る雑所得等に該当する。
  

その結果、海外FX業者などの金融商品取引法上の登録を受けていない無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引が平成28年10月1日以降に行われた場合、先物取引に係る雑所得等に該当しないことが条文上明らかとなりました。

しかしながら、平成28年度税制改正前の期間である平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた取引については、先物取引に係る雑所得等に該当しないということが条文上明らかとなっていませんでした。

そこで、平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引が先物取引に係る雑所得等に該当するのか、それとも該当しないのかが条文上明らかでないため問題となります。

ポイント

  '  
  無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引の課税関係

  1. 【H24.1.1~H28.9.30間の取引】
     先物取引に係る雑所得等に該当しないとの条文の規定なし
     →先物取引に係る雑所得等 または 総合課税の雑所得のいずれに該当するのか?
  2. 【H28.10.1以降の取引】
     先物取引に係る雑所得等に該当しないことが条文に規定された
     →総合課税の雑所得に該当

国税当局の取扱い

平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引に関して、国税当局はどのように取り扱っているでしょうか。

この点、情報公開請求により東京国税局から取得した「所得税・消費税誤りやすい事例集」(令和元年12月)の27頁には次のとおり記載され、総合課税の雑所得として取り扱っていることがわかります。

誤りやすい事例 解  説

◯ 外国金融商品取引業者で、金融商品取引法上の登録をしていない者を媒介するFX取引を、分離課税の先物取引にる雑所得等として申告している。

 平成24年1月1日以後に行う店頭取引であっても、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当しない取引(同法が定める登録を受けていない金融商品取引業者等を相手方として行う取引)は、総合課税の雑所得となる(措法41の14)。

 そして、この事例集から国税当局の取扱いとして次の2つのことを読み取ることができます。

国税当局の取扱いのポイント

  

  • 無登録業者を相手方として行う取引は、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当しない。
  • 平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした海外FX取引などの店頭取引は、総合課税の雑所得に該当する。

(参考1)金融商品取引法上のデリバティブ取引の分類

金融商品取引法は、FX取引を含むデリバティブ取引について取引形態別に次の3つに分類しています。

名 称 根拠条文 内  容
市場デリバティブ取引 金商法2㉑ 金融商品市場において、金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行われるデリバティブ取引
店頭デリバティブ取引 金商法2㉒ 金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行うデリバティブ取引
外国市場デリバティブ取引 金商法2㉓ 外国金融商品市場において行う取引であって、市場デリバティブ取引と類似の取引

【参考】一般社団法人金融先物取引業協会(2015年4月)『金融先物取引の知識』7頁

(参考2)総合課税の雑所得と先物取引に係る雑所得等

総合課税の雑所得と先物取引に係る雑所得等の主な相違点は、次の表のとおりです。

一概にはいえませんが、先物取引に係る雑所得等の方が一律20%の税率である点や損失を3年間繰越可能な点で有利な場合が多いといえます。

  総合課税の雑所得 先物取引に係る雑所得等
課税方式 総合課税制度 申告分離課税制度
税率 所得税:5~45%(※1・2)
住民税:10%
合計税率:15~55%
所得税:15%(※1)
住民税:5%
合計税率:20%
損失が生じた場合 他の所得から差し引くことはできない。
ただし、年金などの他の雑所得の黒字の金額から差し引くことはできる。
他の所得から差し引くことはできない。
ただし、他の先物取引に係る雑所得等の黒字の金額から差し引くことはできる。
損失の繰越し できない 3年間繰越可能

※1 平成25年分から令和19年分までは他に復興特別所得税が加わります。
 2 【所得税の最高税率】平成26年分以前:40%、平成27年分以降:45%

用語解説

  • 総合課税制度  :確定申告により、他の所得と合算して税金を計算する制度
  • 申告分離課税制度:確定申告により、他の所得と分離して税金を計算する制度

検討事項

国税当局の取扱いの妥当性について確認するために、次の2つの観点から検討していきたいと思います。

検討事項
  • 海外所在の無登録業者に対して金融庁が行った警告書の発出
  • 平成28年度税制改正の趣旨

海外所在の無登録業者に対して金融庁が行った警告書の発出

金融商品取引法を所管する金融庁のウェブサイトには、「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」という表題のウェブページがあります。

このウェブページには無登録で金融商品取引業を行っているとして、金融庁(財務局)が警告書の発出を行った者の名称等がPDFファイルとエクセルファイルで公表されています。

そして、「警告書の発出を行った無登録の海外所在業者」というファイルには次のような記載があります。

商号、名称又は氏名等 所在地又は住所 金融商品取引業の内容等 備 考 掲載時期
XXX XXX(海外の所在地又は住所) インターネットを通じて、店頭デリバティブ取引を行っていたもの。 当該業者が提供するサービスの名称は「XXX」である。 平成X年X月

 

なぜ海外所在の無登録業者は、「インターネットを通じて、店頭デリバティブ取引を行っていたもの。」として金融庁から警告書を発出されたのでしょうか。

警告書を発出された理由は、「 金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引には、無登録業者が行った取引も海外で行った取引も含まれるため。」といえます。

なぜなら、仮に 「金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引には、無登録業者が行った取引や海外で行った取引は含まれない」とした場合、海外所在の無登録業者は、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引を行っていないにもかかわらず、金融庁から警告書を発出されるという矛盾が生じてしまうからです。

このことから、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブには、無登録業者が行った取引も海外で行った取引も含まれるといえます。

したがって、「無登録業者を相手方として行う取引は、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当しない」という国税当局の取扱いは妥当ではないといえます。

平成28年度税制改正の趣旨

毎年税制改正が行われると、財務省のウェブサイトに「税制改正の解説」が掲載され、財務省主税局の職員によってあくまでも執筆者の個人的見解であるとの断りの上、税制改正の内容および趣旨説明等が行われています。

そして、平成28年度税制改正が行われた趣旨について、次のように記載されています(筆者下線)。

 平成23年度税制改正において、店頭商品デリバティブ取引や店頭デリバティブ取引に係る所得が本特例の対象とされたところですが、これは、商品先物取引法においては取引所取引及び店頭取引を通じた横断的な規制体系が整備され、金融商品取引法においては店頭デリバティブ取引について市場デリバティブ取引と同様の証拠金規制等が整備されるなど、店頭取引についても投資家保護策が講じられてきていること等を踏まえたものです。

 ところが、近年、金融商品取引法に基づく金融商品取引業の登録をしていない海外に所在する業者が、インターネット取引によって日本の居住者を相手方として店頭取引等を行うケースが見受けられ、投資家とのトラブルが生じています。こうした海外の無登録業者との取引は適切な投資家保護が確保できない取引であることから、無登録業者との取引を本特例の対象外とする観点から次の改正が行われました (措法41の14①一・二)。  

 ⑴ 上記 1 ⑴①イの商品先物取引等のうち店頭商品デリバティブ取引については、商品先物取引法に規定する商品先物取引業者を相手方として 行う取引に限ることとされました。  
 ⑵ 上記 1 ⑴①ロの金融商品先物取引等のうち店頭デリバティブ取引については、金融商品取引法に規定する金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限ります。)又は登録金融機関を相手方として行う取引に限ることとされました。

平成28年度税制改正の解説220頁

この平成28年度税制改正の解説では、平成28年度税制改正は、投資家保護の観点から無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引を先物取引に係る雑所得等の対象から除く趣旨で行われたと解説されています。

このことから、平成28年度税制改正前の期間である平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引は、先物取引に係る雑所得等に該当するといえます。

したがって、「平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした海外FX取引などの店頭取引は、総合課税の雑所得に該当する」という国税当局の取扱いは妥当ではないといえます。

まとめ

国税当局の取扱いのポイントは次の2点でした。

国税当局の取扱いのポイント

  

  • 無登録業者を相手方として行う取引は、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当しない。
  • 平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした海外FX取引などの店頭取引は、総合課税の雑所得に該当する。

しかしながら、国税当局の取扱いについて 海外所在の無登録業者に対して金融庁が行った警告書の発出および平成28年度税制改正の趣旨を検討したところ、国税当局の取扱いは妥当とはいえず、以下の結論に至りました。

本記事の結論

  

  • 無登録業者を相手方として行う取引も、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当する。
  • 平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた無登録業者を相手方とした海外FX取引などの店頭取引は、先物取引に係る雑所得等に該当する。

そして、デリバティブ取引の取引形態別の課税関係は以下のとおりです。

  市場デリバティブ取引(一定のもの) 店頭デリバティブ取引(一定のもの) 外国市場デリバティブ取引
登録業者の場合 無登録業者の場合
~平成23年12月31日 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得
平成24年1月1日~平成28年9月30日 先物取引に係る雑所得等 先物取引に係る雑所得等 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得
平成28年10月1日~ 先物取引に係る雑所得等 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得

 ピンク色部分が国税当局の取扱いと異なる箇所です。

 

 平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた海外FXについて、総合課税の雑所得として確定申告を行い、先物取引に係る雑所得等として申告した場合と比べて税金を多く納めすぎている方がいましたら、成功報酬と交通費等実費負担で応対しますのでお気軽にお問い合わせいただければと思います。
 なお、「更正の請求」という多く納めすぎた税金の還付手続には、申告期限から5年以内という期限があり、平成28年分の更正の請求の期限は、令和4年3月15日(火)となっています。

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