ストックオプション(Stock Option)に係る課税関係

従業員等の勤労意欲向上のために、株式報酬制度を導入している企業も多いかと思います。

そこで今回は、株式報酬制度の一つであるストックオプションに係る課税関係について書いていきたいと思います。

ストックオプションの概要

ストックオプションとは、会社の役員・従業員などが、一定の期間内にあらかじめ定められた権利行使価額で株式を購入することができる制度です。「SO」という略称を用いたりします。

そして、ストックオプションには、原則である税制適格ストックオプションと、特例である税制適格ストックオプションの2つがあります。

税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションとは、税制適格ストックオプション以外のストックオプションをいいます。

税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法第29条の2に規定する要件を満たすストックオプションをいいます。

税制適格ストックオプションとなる要件の一例を紹介しますと、次のようなものがあります。

  1. 自社または子会社の取締役、執行役または使用人に付与されたものであること
  2. 権利行使が、付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までの間に行われること
  3. 権利行使価額の年間の合計額が1,200万円を超えないこと
  4. 1株当たりの権利行使価額が、付与契約締結時の株価以上であること
  5. 譲渡禁止であること
  6. 金融商品取引業者等に保管の委託若しくは管理等信託がされること

用語

ストックオプションの制度を理解するために覚えておきたい用語として、次のものがあります。

ストックオプション用語
  • 付与(Grant)・・・ストックオプションを付与すること
  • 権利行使(Exercise)・・・ストックオプションの権利を行使すること
  • 権利行使価額(払込価額)(Exercise Price)・・・ストックオプションの権利を行使する際の払込価額
  • 売却(Sell)・・・ストックオプションによって取得した株式を売却すること

税制非適格ストックオプションの課税関係

税制非適格ストックオプションの課税関係について、事例を基にみていきたいと思います。

 事例1 


 A社に勤務するBは、次のとおりA社から付与された税制非適格ストックオプション1,000株分の権利行使を行い、売却した。

  • ×1年7月1日 ストックオプションを1,000株分付与された。権利行使価額@1,000円
  • ×4年7月1日 ストックオプション1,000株分の権利行使を行った。A社株式の株価は@3,000円
  • ×5年7月1日 ストックオプションによって取得した1,000株を売却した。A社株式の株価は@7,000円
  • ストックオプションは他に譲渡することができず、権利行使前に退職した場合は失効する。

権利付与時の課税関係

ストックオプションを付与された時点では、経済的利益が発生していませんので、課税関係は生じません。

権利行使時の課税関係

ストックオプションの権利を行使した場合は、権利行使時の株価と権利行価額との差額が経済的利益となり、給与所得として課税されます。 (所令84)

そのため、次の算式の金額が経済的利益となり、×4年分の給与所得の収入金額に加算することになります。

【算式】
(権利行使時の株価@3,000円-権利行使価額@1,000円)×1,000株=2,000,000円

株式売却時の課税関係

ストックオプションにより取得した株式を売却した場合は、株式等に係る譲渡所得として課税されることになります。

なお、株式等の取得費は権利行使時の株価となります。(所令109)

そのため、次の算式の金額が株式売却益となり、×5年分の株式等に係る譲渡所得となります。

【算式】
(売却時の株価@7,000円-権利行使時の株価@3,000円)×1,000株=4,000,000円

税制非適格ストックオプションの課税関係
  1. 【権利付与時】
     課税関係なし
  2. 【権利行使時】
     (権利行使時の株価-権利行使価額)×株数 = 給与所得(※)
      ※ 給与所得の収入金額に加算
  3. 【株式売却時】
     (売却時の株価-権利行使時の株価)×株数 = 株式等に係る譲渡所得

外資系企業のストックオプションなど外国株式の場合は計算式が少し変わりますので、「外資系企業に勤務する会社員がストックオプションを行使・売却した場合の課税関係」をご覧ください
 

税制適格ストックオプションの課税関係

税制適格ストックオプションの課税関係について、事例を基にてみていきたいと思います。

 事例2 


 C社に勤務するDは、次のとおりC社から付与された税制適格ストックオプション1,000株分の権利行使を行い、売却した。

  • ×1年7月1日 ストックオプションを1,000株分付与された。権利行使価額@1,000円
  • ×4年7月1日 ストックオプション1,000株分の権利行使を行った。C社株式の株価は@3,000円
  • ×5年7月1日 ストックオプションによって取得した1,000株を売却した。C社株式の株価は@7,000円
  • ストックオプションは他に譲渡することができず、権利行使前に退職した場合は失効する

権利付与時の課税関係

ストックオプションを付与された時点では、経済的利益が発生していませんので、課税関係は生じません。

権利行使時の課税関係

ストックオプションの権利を行使した場合は、本来、権利行使時の株価と権利行価額との差額が経済的利益となります。

しかし、税制適格ストックオプションの場合は、権利行使時点での経済的利益に対して課税されず、課税が繰り延べられることになります。(措法29の2)

株式売却時の課税関係

ストックオプションにより取得した株式を売却した場合は、株式等に係る譲渡所得として課税されることになります。

なお、株式等の取得費は払込価額(権利行使価額)となります。(所令109、措令19の3)

そのため、次の算式の金額が株式売却益となり、×5年分の株式等に係る譲渡所得となります。

【算式】
(売却時の株価@7,000円-払込価額@1,000円)×1,000株=6,000,000円

税制適格ストックオプションの課税関係
  1. 【権利付与時】
     課税関係なし
  2. 【権利行使時】
     課税関係なし
  3. 【株式売却時】
     (売却時の株価-払込価額)×株数 = 株式等に係る譲渡所得

まとめ

税制非適格ストックオプションと税制適格ストックオプションの課税関係を見てきましたが、次の点で税制適格ストックオプションの方が有利であるといえます。

税制適格SOのメリット
  1. 権利行使時の経済的利益に対する課税が繰り延べられる
  2. 権利行使時の経済的利益分に対する課税が、株式等の譲渡所得として一律20.315%の税率で課税されるため、給与所得として課税されるよりも税率が低い場合が多い

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