海外FXの税金①(デリバティブ取引の分類及び課税関係の概要)

第1回目のブログとして、海外FXなどの金融商品取引法上の登録を受けていない無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引の課税関係を全2回にわたって取り上げたいと思います。

はじめに

インターネットを通じて日本の居住者が、海外のFX業者を相手方として店頭FX取引などの店頭デリバティブ取引を行い、利益を得たり又は損失を被ったりすることがあります。

このような海外FX業者などの金融商品取引法上の登録を受けていない無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引の課税関係について、平成28年度税制改正が行われました。

その結果、平成28年10月1日以降に行われた取引については、申告分離課税の先物取引に係る雑所得等(以下「先物取引に係る雑所得等」といいます。)に該当しないことが条文上明らかとなりました。

しかしながら、平成28年度税制改正前の期間である平成24年1月1日から平成28年9月30日までの間に行われた取引については、先物取引に係る雑所得等に該当しないということが条文上明らかとなっていませんでした。

そこで、無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引の課税関係について、平成24年1月1日から平成28年9月30日の間に行われた取引を中心に検討していきたいと思います。

ポイント

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  無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引の課税関係

  1. 【H24.1.1~H28.9.30間の取引】
     先物取引に係る雑所得等に該当しないとの条文の規定なし
     →先物取引に係る雑所得等または総合課税の雑所得のいずれに該当するのか?
  2. 【H28.10.1以降の取引】
     先物取引に係る雑所得等に該当しないことが条文に規定された。
     →総合課税の雑所得に該当

金融商品取引法上のデリバティブ取引の分類

金融商品取引法は、FX取引を含むデリバティブ取引について取引形態別に次の3つに分類しています。

名 称 根拠条文 内  容
市場デリバティブ取引 金商法2㉑ 金融商品市場において、金融商品市場を開設する者の定める基準及び方法に従い行われるデリバティブ取引
店頭デリバティブ取引 金商法2㉒ 金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行うデリバティブ取引
外国市場デリバティブ取引 金商法2㉓ 外国金融商品市場において行う取引であって、市場デリバティブ取引と類似の取引

【参考】一般社団法人金融先物取引業協会(2015年4月)『金融先物取引の知識』7頁

デリバティブ取引に係る課税関係の概要

一般的に、デリバティブ取引から生じた所得は、総合課税の雑所得又は先物取引に係る雑所得等のいずれかに該当します。

総合課税の雑所得と先物取引に係る雑所得等

総合課税の雑所得と先物取引に係る雑所得等の主な相違点は、次の表のとおりです。

一概には言えませんが、先物取引に係る雑所得等の方が一律20%の税率である点や損失を3年間繰越可能な点で有利な場合が多いといえます。

  総合課税の雑所得 先物取引に係る雑所得等
課税方式 総合課税制度 申告分離課税制度
税率 所得税:5~45%(※1・2)
住民税:10%
合計税率:15~55%
所得税:15%(※1)
住民税:5%
合計税率:20%
損失が生じた場合 他の所得から差し引くことはできない。
ただし、年金などの他の雑所得の黒字の金額から差し引くことはできる。
他の所得から差し引くことはできない。
ただし、他の先物取引に係る雑所得等の黒字の金額から差し引くことはできる。
損失の繰越し できない 3年間繰越可能

※1 平成25年分から令和19年分までは他に復興特別所得税が加わります。
 2 【所得税の最高税率】平成26年分以前:40%、平成27年分以降:45%

用語解説

  • 総合課税制度  :確定申告により、他の所得と合算して税金を計算する制度
  • 申告分離課税制度:確定申告により、他の所得と分離して税金を計算する制度

税制改正

デリバティブ取引に係る課税関係については、大きな税制改正が2回行われました。

1回目は平成23年度税制改正であり、平成24年1月1日から施行されました。2回目は平成28年度税制改正であり、平成28年10月1日から施行されました。

平成23年度税制改正前

平成23年度税制改正が施行される前の期間である平成23年12月31日以前は、デリバティブ取引の中でも、市場デリバティブ取引のうち一定のもの のみが先物取引に係る雑所得等に該当していました。

そして、店頭デリバティブ取引及び外国市場デリバティブ取引については、総合課税の雑所得に該当していました。

平成23年度税制改正後から平成28年度税制改正前

平成23年度税制改正により、平成24年1月1日以降に行われた店頭デリバティブ取引のうち一定のものについては、先物取引に係る雑所得等に該当することになりました。

平成28年度税制改正後

平成28年度税制改正により、平成28年10月1日以降に行われた店頭デリバティブ取引のうち一定のものについては、金融商品取引法に規定する第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者または登録金融機関(以下「登録業者」といいます。)を相手方として行うものに限り、先物取引に係る雑所得等に該当することになりました。

国税当局の取扱い

平成23年度税制改正後の平成24年1月1日以降に行われた無登録業者を相手方とした店頭デリバティブ取引に関して、国税当局はどのように取り扱っているでしょうか。

この点、情報公開請求により東京国税局から取得した「所得税・消費税誤りやすい事例集」(令和元年12月)の27頁には次のとおり記載され、総合課税の雑所得として取り扱っていることがわかります。

誤りやすい事例 解  説

◯ 外国金融商品取引業者で、金融商品取引法上の登録をしていない者を媒介するFX取引を、分離課税の先物取引に係る雑所得等として申告している。

 平成24年1月1日以後に行う店頭取引であっても、金融商品取引法に規定する店頭デリバティブ取引に該当しない取引(同法が定める登録を受けていない金融商品取引業者等を相手方として行う取引)は、総合課税の雑所得となる(措法41の14)。

 

まとめ

税制改正及び国税当局の取扱いを踏まえますと、デリバティブ取引の取引形態別の課税関係は次の表のとおりです。

  市場デリバティブ取引(一定のもの) 店頭デリバティブ取引(一定のもの) 外国市場デリバティブ取引
登録業者の場合 無登録業者の場合
~H23.12.31 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得
H24.1.1~H28.9.30 先物取引に係る雑所得等 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得
H28.10.1~ 先物取引に係る雑所得等 先物取引に係る雑所得等 総合課税の雑所得 総合課税の雑所得

黄色部分について、総合課税の雑所得として取り扱うことが適当かどうか次回「海外FXの税金②(H24.1.1~H28.9.30の取扱いの検討)【詳細版】」で検討したいと思います。

なお、条文などを割愛した簡易版は、海外FXの税金③をご覧ください。

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